ハンバーガーと手紙

三日続けてお昼ごはんにハンバーガーを食べました。
ハンバーガーが美味しいのは、見るからに体に悪そうだからだと思います。
同じように、誰かから誰かへの気持ちも、
見るからにわかる方がずっと濃い味がします

だから私は今日、読んでくださっているあなたに向けて、
自己紹介も兼ねて短い手紙を書いてみることにします。

〇〇へ
いま午後の2時を回ったあたりです。
3日目のハンバーガーを食べた勢いで、
「今しかない!」と思ってパソコンに向かっているところです。

書いた手紙はお気に入りの緑色の封筒に入れるつもりです。
内側は銀紙になっていて職人さんが一つ一つ手作業で作っていると聞きました。

いま一度もあったことのない職人さんに思いを巡らせたように、
私はうんと古い写真を見て、自分が生まれるより前の街で、
あったことも、会うはずもない人のことを考えることが好きです。

話が逸れました。
私には大切にしていることがあります。
家族や友人、あるいは会社の人と話していて心に残ったこと、興味を持ったこと、
嫌だなと思ったこと、苦手だなと思ったこと、わからなくなること、わかろうとしなくなること、

その時々に感じた全部をちゃんととっておくことです。

日常の中でなんとなく、思い出す人っていますよね?
洗剤をボトルに詰め替えるとき、豆腐に醤油をかけるとき、
恵方巻きをこぼさないように食べるとき、
そんな日常の一部で、「あーあの人どうしてるかなー」って思う人です。

そんななんとなく思い出す人と同じように
過去の自分が感じたことは仕舞い込んだり、忘れたふりをしないで、
ちゃんととって置くようにしています。

「ひとは、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。
だけど実際は未来は過去を常に変えている。変えられるともいえるし、変わってしまうとも言える。
過去はそれくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

「マチネの終わりに」平野啓一郎著
マチネの終わりに 平野啓一郎著

通勤の電車や車の中、仕事中、お昼休憩、誰かとの夕食、ひとりの夕食、それぞれの趣味の時間、、。どんな時も過去は少しずつ変化し続けています。

嫌だったことは嫌じゃなくなるかもしれないし、
わからなかったことはわかるようになるかもしれません、

だから私は過去の自分の感じたことはちゃんととって置いています。

でも過去を全部背負って、前向きに生きるのは難しいです。

嫌だったことは嫌なままかもしれないし、
わからなかったことはもっとわからなくなるかもしれません。

だから時にはカニみたいに横向きに歩くし、歩いたふりをすることもあります。

そんな時、家族や友人、恋人、とにかくあなたにとって心地のいい人といると、楽しいことは二倍になるし、嫌なことは半分になります。

このところ、ご時世柄なのか
もの寂しくなったり、些細なことで苛立ったりすることが増えました。
寂しいっていう気持ちは、誰かと会うためにある気持ちだと思います。

参考
赤色彗星倶楽部 監督ー武井佑吏
WOMAN  脚本ー坂元裕二

親しい間柄の挨拶に「さよなら」ってありませんね。

誰かにさよならって言いたくないなと思ったとき、
その人とは心地のいい関係になったのだと思います

私は誰かが私に向けた言動とか、感情にいつも緊張してしまいます。
それは本当のその人には触れられないからだと思います。

あなたに対するそれが、そうじゃないといいなあと思います。

暮らしていくことは、希望と絶望の繰り返しです。
しかし人間には想像力があります。未来を想う力があります。

あなたにもその強さがあることを信じています。

追伸
すっかり遅くなっていました。
外からは夕方のチャイムの音が聞こえます。

遠き山に 日は落ちて
星は空を 散りばめん
きょうのわざを なし終えて
心軽く 安らえば
風は涼し この夕べ
いざや 楽しきまどいせん

「遠き山に日は落ちて(家路)」

「遠き山に日は落ちて(家路)」という曲ですが、
この曲の最後に登場する「まどい」とは「円居/団居」だそうで、車座になって囲炉裏や火を囲むことから転じて、
特に親しい者たちが集まって楽しむこと、団欒をさす言葉です。

最後まで読んでくださったあなたが、
いつかの心地良い人との円居に想いを巡らせる暮らしの余白を過ごせますように。

text by 西野亮太